私の愛する一冊「バイオリニストは肩が凝る」

 バイオリンを再開してまもなく出会ったこの本、バイオリンのハードルが一気に下がったことを覚えています。
この「バイオリニストは肩が凝る」はあのN響の第一バイオリン奏者、鶴我裕子さんの著書です。 残念ながら、この本を手にしてまもなくN響に定年制度ができ、数回テレビで鶴我さんを拝見しただけで退団されました。
天下のN響の奏者のエッセイだから、さぞかしお堅い努力話や天才ぶりが書かれていると思ったら見事に裏切られます。勿論、そういう本はあまり買う気がしないのですが。
 N響をカイシャと呼び、オーケストラの知られざる日常、世界のマエストロ達の本番ではわからない愛すべき姿などなど、読めば笑いをこらえられず家の人に不審な目で見られることは確かです。
 特に力が入っているのはやはりバイオリンパートの悲哀、ささやきでしょう。
オケの中でも出ずっぱりで、必死に弓を動かしているにもかかわらず、演奏が終わってマエストロに指をさされて拍手喝采をもらうのは必ず管楽器奏者なのだから割りが合わないパートなのです。
 だから、後半に出てくる「裕子の音楽語事典」のコンサート・マスターの箇所では、コンマスをサル山のボスとしながらも、バイオリンパートはオーケストラの華であり「その他」ではない。常々「オレはソロだ」と威張っている金物、吹きもの、打ちものの方々に声を大にして言いたい、と書いて日頃のうさを晴らしているのにも納得します
 日頃、譜読みに四苦八苦している自分には、筆者の譜読み方法には感服しました。
まず、こたつに足を突っ込み、上にバイオリンのケースを置いて楽譜を立てかけテレビをオンにする。アニメ、ワイドショーでも構わないが相撲が一番都合いい。分厚い楽譜の最後のページからさらう。相撲が終わる頃には、アラ不思議、全部弾き終わっていると。
そうか、長いしきりは見なくていいから譜読みができる! でもシニアの自分は真似しないほうがよさそうです。怪しげな音で取り組みを見逃すだろうし、もしタイミング良く見たとしても興奮して大事な楽器をぶつけるのがオチです。

 その他、ユーモアあふれる音楽解説もあり、クラシック界を美化して遠くから見ている私達のプレッシャーを緩和してくれるありがたい一冊です。
また、この本はバイオリン愛ゆえ公平な視点では書かれていないという方々のため、管楽器を楽しむ方たちにはN響文壇の東の横綱、オーボエ奏者、茂木大輔さんの著書をお勧めします。
 演奏家は演奏技術以外にもユーモアのセンスが秀でていることに驚かされることは間違いありません。

 

by Sugar&Milk